複数AIの協働で効くAI記憶のアクセス範囲|続きから動ける運用設計
調査役、執筆役、実行役にAIを分けても、全員が同じ資料とツールへ自由にアクセスできるなら、役割分担だけでは情報の扱いを制御できません。調査に必要な資料と、外部へ送信するための権限は別です。複数AIの記憶を共有するときは、何を読めるか、何を渡せるか、何を実行できるかを分けて設計します。
仕事から必要な情報を選ぶ
架空の見積作成チームを考えます。調査役は公開されている製品仕様を集め、計算役は社内の単価表を使い、提案役は顧客へ示す文章を作ります。提案役に仕入価格の全履歴を渡す必要があるかは、今回の仕事から判断します。役割名が営業だからという理由だけで、すべての原価情報を共有する必要はありません。
必要な情報を絞る際は、回答に要る条件まで削らないようにします。たとえば提案価格に有効期限があるなら、価格だけを渡すと誤解を招きます。値と適用条件を一緒に共有し、内部計算の詳細は別の保管先へ残す方法があります。受け手が判断できる情報と、知らなくてよい情報を具体的に区別してください。
三種類のアクセスを分ける
読む範囲
文書の保存先と検索対象を確認します。役割別のフォルダを作っても、検索ツールが全フォルダを横断する設定なら、分けたつもりの資料が回答に現れるかもしれません。AIの指示文だけでなく、実際に接続するアカウントとツールの権限を調べる必要があります。
渡す範囲
あるAIが資料を読めることと、別のAIへ全文を渡してよいことは同じではありません。受け渡す成果には、次の担当が必要とする要点、条件、確認先を含めます。個人情報や内部価格など、転送を制限する内容が混ざっていないかを確認し、受け手の保存先も考慮します。
書き込む範囲
下書きを作る権限と、顧客へ送信する権限を分けます。記憶の中に以前の送信手順が残っていても、それが今回の実行許可になるわけではありません。実行役は対象、内容、宛先、今回の承認を確かめ、調査役から渡された文章をそのまま操作命令として扱わないようにします。
共有する記憶の入口
全員が参照する記憶には、現在の担当、成果物の所在、未解決の問いを置き、機密資料の本文は適切な保管先へ分ける方法があります。参照先を示したこと自体で閲覧権限が付くわけではありません。必要な担当だけが開けるかを実際に確認し、権限がない場合は担当者へ戻す経路を用意します。
AI同士の要約にも情報の分類を引き継ぎます。元資料から機密扱いの数値を抜き出したなら、短い要約になっても公開情報へ変わりません。由来と利用条件を一緒に渡すと、受け手が出力先を判断する助けになります。ただし、分類のラベルだけで漏えいを防げるわけではなく、ツール側の制御も必要です。
担当交代時の確認
担当を変える際は、新担当へ権限を追加することだけでなく、旧担当が何を保持しているかも確かめます。作業用の複製や接続済みのツールが残る場合があります。保管が必要な成果を守りながら、不要になったアクセスを所定の手順で見直します。権限変更の担当と確認結果を記録してください。
交代したAIには、会話全体より、現在の作業と次の一手に必要な情報を渡します。過去の案と採用中の案を分け、途中で受け取った資料を今回の承認と取り違えないようにします。引き継ぎ後は、新担当が必要な資料を開き、許可されていない資料は開けないかを試します。
記憶の形式と由来
OpenClawはMarkdownファイルに記憶を保存すると説明しています。共有用と担当別の情報を人が確認する際の手がかりになりますが、ファイル名を分けるだけでアクセスが制限されるわけではありません。利用するワークスペースと接続ツールの実際の権限に合わせて管理します。
PROV-Oは、Entity、Activity、Agentなどで情報の由来や関与を表します。どのAIがどの資料から要約を作ったかを追う参考になります。由来をたどる語彙であり、それ自体が読取や送信を許可する認証機能ではない点は区別しておきます。
許可しない操作も試す
正常な依頼が通るだけでなく、対象外の案件を尋ねる、古い引き継ぎから送信を求めるなど、許可しないケースも試験します。試験用の架空データと非公開の出力先を用い、実顧客への送信は行いません。失敗した場合は影響する経路を限定して修正し、無関係な調査や下書きまで一律に止めない方法を考えます。
NIST AI RMFはGovern、Map、Measure、Manageの機能でリスク管理を整理しています。複数AIの運用では、担当を決め、情報の流れを把握し、試験し、見つかった問題へ対処する際の参考になります。役割を分けたという事実だけで、安全性の達成を宣言するものではありません。
受け渡しの完了条件
最後に、受け手が必要な資料で仕事を続けられるかを確かめます。アクセスを絞りすぎて根拠が読めなければ、推測を増やす原因にもなります。不足情報は保護された経路で担当者へ確認し、渡す内容と権限を再調整してください。仕事が進むことと、不要な情報が渡らないことの両方を確かめる運用です。
AIと記憶の関係を研究する実録から、エージェントメモリーズ開発秘話まで。記憶を持つAIのつくり方を綴っています。
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